巨人と抹茶味の月餅、あれこれ不安な2024年9月の手記

日々のあれこれ

こんにちは、宮寺理美です。
2024年は、中国の各種SNSで情報発信をしたり、日本の媒体で発信をする中国出身のクリエイターたちにとっては、
あまり状況が良いとは言えませんでした。
特にフォロワー数や閲覧数をただの数字としてしか認識しておらず、
相手の事を虫くらいにしか思っていないインフルエンサーや芸能人以外には、試練の年だと言えます。
蘇州の日本人学校のバス襲撃事件、原子力発電所の処理水放出に対する反発、神社の石柱への落書きや放尿、
NHKの中国人スタッフによる領土問題の発言などなど。
思いつく限りでもこれだけ出てきます。
そして先日、更に痛ましい事件が起こってしまいました。

中国 日本人学校の男児死亡事件 地元紙が容疑者について報道 | NHK

日本も中国もインターネットは荒れ放題。見るも無残な現状です。
私が「中国版Twitter」とよく言われる微博を始めたのが2018年の冬です。
この約7年間だけでも、中国のフォロワーさんや友人たちとコツコツ積み上げた石を、
どんがらがっしゃんと崩していく巨人のような事件がたびたび起こりました。
でも、今回に限っては、完全に意気消沈している人も多いです。
個人間で仲良くする事すらも簡単にできなくなってしまったような、重苦しい雰囲気。
実際、何人かの友人から「きっとまたビザ取れなくなるから、しばらく会えないね」とか、
「土砂崩れみたい」とか、そんな弱気な連絡が来ました。
そりゃそうです。だって小さな子供の命が失われてしまったのですから。
亡くなったお子さんは日本と中国のハーフで日本国籍を有していたそうです。
お子さんを守れなかったお母さまの気持ちを思うと、比喩表現ではなく涙が止まりません。
2018年当時がこんな年だったら、きっと私は微博を始めていなかったと思います。

日本メディアではあまり報道されないので、実感がない方も多いと思いますが、
事件が起きた9月18日は中国では九・一八事変(柳条湖事件)と呼ばれます。
(私の世代では教科書に満州事変と記載されていましたが、今も同じなのでしょうか。)
この日になると各種SNSの大手メディアや著名人のアカウントでは
「歴史を忘れない」という趣旨の投稿が繰り返しされます。
そして、私の元に誹謗中傷が最も多く届く日のひとつです。

この日は、それまでにどんな善行をしていても、ただ日本人だというだけで罵倒されます。
私は完全スルーなのですが、時々罵倒に気圧されて謝っちゃう人がいるんですよね。
もちろん、一時は好意的に受け止められ、もてはやされます。
「自分の過ちを認めることが出来るお前は強い」とか「英雄だ」などなど。
でもすぐに「じゃあすぐに大使館に行って説得して来い」とか、
「じゃあなんで日本政府は賠償金を払わないんだ」などのイチャモンの嵐に見舞われます。
そういう人をたくさん見て来ました。
もちろん、外交官でも政治家でもない一般人にそんな影響力も責任もありません。
でも、彼らにとって、それらは正論なのです。
「日本人」が「中国人」に対して、自らの過ちを認めて謝罪したのですから。
相手の属するコミュニティだけが理由で罵倒される日ですから、こうなるのも当たり前ではあります。
日本ではごめんなさいで水に流す文化が強めですし、個人の感覚では「謝ったら終わり」です。
1人1人が日本代表になりうる環境にも慣れていません。
でも、事が事なので、一般人がごめんなさいしたくらいで許してもらえるわけがないんですよ。
日本の歴史教育では、第二次世界大戦・太平洋戦争に重きを置いて、
戦争を繰り返さない事の大切さを入念に刷り込みますよね。
喧嘩両成敗の精神も、お互いにごめんなさいして仲直りされる文化も、子供の内から教えられます。
日露戦争や日中戦争については、起った出来事や年号をテスト問題として教えるだけで、
実際にどんなことがあったのかまでは踏み込みません。
そして、日本と他国の間で同じ事件に対しての重さのギャップがある事は、誰も教えません。
中国との戦争には、興味関心を抱かないまま大人になるのが普通です。
中国以外の国の方に「日本には戦争責任がある」と言われても、ポカーンとしてしまう人も多いかと思います。
せめて最低限、このようなギャップがある事は教えないといけないと私は思うんです。

今回の事件を受け、中国のメディアでは一般人による献花が報道されました。
一部の切り抜き動画がX(旧Twitter)に転載されていたのですが、
インタビューに答えた男性が「長年の反日教育の結果だ」という趣旨の発言をしていたのが印象的でした。
同じくX(旧Twitter)で、反日教育の実態として日本国旗を踏みつける写真が出回っているのも見かけました。
恐らくこのような時に短絡的に怒りを増長させるものとしてよく投稿される写真なのでしょう。
しかし、インタビューに答えた男性は、おそらくこのような「教育」をイメージしていなかったんじゃないかと思うんです。
感覚なので確証はないのですが、このような動画や写真は中国のSNS「快手」から切り取られたものが多いように思います。
しかも、数年間使いまわされている印象です。下手したら10年くらい前かもしれないですね。
中国は変化の速い国です。1週間ほどで法律が変わる国ですからね。
以前、若い頃に深圳に行ったことがあるよ、と言っていた70歳オーバーの男性とお話したことがあるのですが、
その頃はビルなんて無かったそうで、現在の深圳を見せたらすごく驚いていました。
つまり、「日本国旗を踏みつける」系の教育が学校機関で全国的に行われていると認識するのは、
ちょっと短絡的すぎると思うんです。

情報の偏りについても少し触れたいと思います。
しばらく前にTikTokで「カンカンダンス」と言われているダンスが流行っていました。
そちらの元ネタの動画も、先ほど紹介した「快手」というアプリが発端のようです。
カンカンダンスは日本の芸能人もノリノリで踊っていたバズ曲なのですが、
中国では「抗日神曲」とも呼ばれています。
あれを見て頭を抱えていた人は実は多いと思います。
意味も分からず楽し気に踊る日本人は、あちらから見たらただのアホですから。
「快手」は中国北部の人々から人気の、TikTokのようなショート動画のアプリです。
中国のおもしろおじさんなどなど、生活感のある投稿が多いのですが、ユーザーが偏っているのも特徴です。
ご存じの方もいるかもしれないですが、中国の北部は抗日の中心地でもあります。
中国のは本当に広いので、情報の切り取り方や見る媒体によって傾向が全然違うんですよね。
X(旧Twitter)では「中国のSNSでこんなにひどいコメントがたくさんついていた」という内容の投稿も多いです。
コメント欄の一部切り取りでよく見かけるのは微博なのですが、
投稿によっては「申し訳ない」とか「亡くなったお子さんのご冥福をお祈りします」とか、
「犯人を厳しく罰するべきだ」とか、そんなコメントが万単位でついてるケースもあります。
繰り返しになりますが、一部切り取りだけを見て中国全土が同じだと判断するのは、あまりにも短絡的です。
SNSにはアルゴリズムがあるので、偏らずに情報収集するのはコツがいりますしね。

私のSNSには、9月18日には誹謗中傷や、
現実味の無い殺害予告(例えば、日本人は全員●す、みたいなのです)が届きます。
でも、私のフォロワーさんたちって本当に優しいんですよね。
そういうことを言う人に私は反論しないので、
代わりに反論したり、通報しまくってアカウント凍結させたり。苦笑
そんなこともあったので、「放置すると私じゃない誰かが代わりに怒ったり傷ついたりしてしまうんだな」と思い、
途中で運営方針を変えました。
余りにもくだらない物は無視しますが、間違っていることは間違っていると発言するようにしました。
日本人のSNSは苦情の受付窓口ではないことをきちんと伝えて正しい窓口をご案内したり、
日本人の女は全員AV女優だと言われたのを「それは職業誤認で、AV女優さんにも失礼ですよ」と指摘したり。
結果的にフォロワーにはなぜか大ウケしてしまった事も時々ありました。
私個人的にはずっと真面目にやっているんですけどね。

ただ、今回のようなことがあると、「いい人もいるんだよ」だけでは段々済まなくなってしまいます。
今まで笑えていたようなやり取りも、今はもう笑えないです。
正直、どこを見ていてもこの雰囲気をフォローできるほどの要素が見当たらず、
結構前向きな私ですら「どうすんのこれ」って思うのが現状です。
これはもう政治的なあれこれで、お互いに納得できるところに着地してもらうしか道が無いように思います。
これってすごく厳しいことだと思うんですが、我々民間人が普通に笑って仲良くできるよう、
政治面ではしっかりいていただきたいな、と思うのが本音です。
インターネット世論では「国交断絶」などと言っている世間知らずのアホの人もいるようです。
現状の日本の最大の取引先は中国で、これは周知の事実のはずなんですけどね。
中国からの観光客がゼロになって、どれだけの数のお店が閉店したのかご存じないのでしょうか。
中国への水産物の輸出もようやく規制が緩和されましたが、
その間にどれだけの人が尽力されたのかご存じないのでしょうか。
国旗を踏みつけるような教育を受けてきた人が、年間10万人も留学しに来るのも不思議ですよね?
留学に来る人はそんな教育は受けてない、と考えるのが自然なのに、なぜか受け入れられないのでしょうか。
日本の学校機関って、少子高齢化で日本人だけじゃもう回らなくなってきています。
中国人留学生がゼロになったら、何個か学校が無くなるでしょう。
ゆくゆくは日本の教育水準も下がると思いますよ。
何も考えずに自分の日々のストレスを発散する相手を、
「中国」というもやっとした認識の隣国にしか設定できないのは、ただのアホだと思うんですが、
(すみません、怒ってるのでアホとか書いちゃうけど、他に適当な言葉が今は見つかりません。)
あの人たちは大概、中国に行ったことも無ければ中国人の友達もいなくて、
情報源がインターネットで、しかも同調できるアカウントしか見ないんですよね。
これ、特定の日に私を罵倒する人と属性が丸被りなんですよ。
喧嘩は同レベルの人間でしか発生しないとはよく言うのですが、言説が本当に似ていて毎回感心します。
本当は仲良しなんじゃないのかな。国の事なんて本当は何も憂いていないのもそっくりです。
中国と本当に国交断絶したいなら、国力を育てることをきちんと考えないとダメなんですけど、
それを怠ってきたのは私達日本人です。
冷静になって反省し、政治家を叱咤激励し、きちんと選挙に行くしかないんですよ。

私個人的には、自分のできることを、とりあえずこれからもまっとうしようと思っています。
どんな出自の人でも、お互いを尊重しあえる関係性が理想ですし、
それができないならどんな人とも仲良くなれないです。
中国で応援していただけるのも当たり前の事では全くないので、
各種SNSのフォロワーさんたちには感謝の気持ちしかありません。
特定の日に襲来して私を罵倒していく知らないヤツは、普段の私の言動を見ていません。
私がどんなことを考えていて、どんな方針でSNSを運営しているのかも知りません。
そんな現実味の無い人より、目の前にいる人の態度や言葉の方が何百倍も信頼できます。
「どうすんのこれ」な雰囲気ではありますが、私はこの姿勢を貫きたいです。
(だから政治本当にがんばって…)

痛ましい事件が起こってしまった9月18日の前日、9月17日は中秋節でした。
日本では「お月見」と呼ぶのが一般的ですが、
中国や東南アジアでは「中秋節」とか「ミッドオータムフェスティバル」、韓国ではチュソクですよね。
きっと同じ月を見上げていた人があちこちにいたはずです。
今年は友達から貰った抹茶味の月餅という、不思議なものを食べました。
私たちの文化は、これからもこうして混ざって行くんだろうな、と思うと、
なんともいとおしい味でした。

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