こんにちは、 夏が嫌いな宮寺理美です。
2024年6月は、東京では梅雨がほぼありませんでしたね。
突然嵐が来たと思ったら突然暑い日が訪れる、という気候が続くので、
低気圧による体調不良に悩まされる1ヶ月になりました。
じめっとした雨がずっと続くのも堪えますし、ここ数年の炎天下も辛いです。
早くも秋が恋しいです。
とはいえ、6月は私の誕生月でもあり、
梅雨の花である紫陽花にはなんとなく親近感があります。
幼い頃に祖母が庭で育てていたせいもありますが、青っぽい色の紫陽花は私にとっては懐かしい花です。
「懐かしい」という感情は不思議なもので、見たことがない物に対して抱く事もありますし、
文化の違う国の人とも共有しやすい感情のように思います。
そんな特別さからか、数年前から、紫陽花は私にとって少し特別な存在です。
特に、ここでも度々話題にしている中国のSNSでも、
紫陽花という花は私に小さな心の交流をもたらしてくれました。
紫陽花は近代化の時代に海外で流行し、逆輸入的な感じで品種改良が繰り返された経緯もありますが、
日本原産であることには間違いないようです。
明治時代くらいの歴史を調べてみると、
シーボルトが好きな女性の名前「お滝さん」にちなんで「オタクサ」と名付けたとか、
それに対して、植物学者の牧野富太郎がキレ散らかしただとか、
そんな紫陽花にまつわるエピソードがよく紹介されています。
牧野富太郎はNHKドラマ小説「らんまん」の主人公のモデルになった人物ですね。
「オタクサ」にまるわるシーボルトのエピソードは、
山本武臣『アジサイの話』(八坂書房、1981)に経緯が綴られています。
シーボルトは紫陽花に対してロマンチックな愛着を抱いていたようです。
一方、永井荷風は多情な娼妓を描いた小説のタイトルに「あぢさゐ」と名付けていますし、
佐藤春夫は未亡人と未亡人に思いを寄せる男性の会話を記した小説に「あじさい」と名付けています。
近代化の時代の男性たちの、現実の女性を直視できない正確には度々うんざりしますが、
おそらく彼らにとっても、紫陽花の儚げな外見や、土質によって色が変わる性格は神秘的で、
物語の題材としても扱いやすかったのではないでしょうか。
ここ数年、中国のSNSでも、紫陽花をよく見かけるようになったと感じます。
中国はとにかく土地も広大なので、植物園などの写真は圧巻です。
しかし、紫陽花は比較的に株が小さく、面積は広いですが、お花畑という風情です。
日本の紫陽花は低葉樹の風情ですので、小さくて可愛らしいな、と思います。
しかし、わざわざ日本に足を運んで紫陽花を観賞する人が一定数いるので、
どうしてわざわざ日本に?と思い、一度SNSでフォロワーさんに尋ねてみました。
私のフォロワーさんたちは日本の文化や文学作品、映画やアニメなどに親しむ人が多いので、
アニメや映画に登場する紫陽花が印象的だったようです。
中には「文学的なイメージがある」と言ってくださる方もいました。
また、北京などではホコリ対策の街路樹として紫陽花を植えるケースもあるようで、
「こちらの紫陽花は観賞用ではないし、色は大体赤いんですよ~」という声もありました。
鎌倉の紫陽花や、東京都の飛鳥山公園の紫陽花が人気な理由がよく分かりました。
最近は中国版Instagramと言われている「小紅書」で下田公園がすごく人気のようです。
また、観光地からのアクセスがいいからか、旧中川公園の紫陽花もすごく人気です。
紫陽花の向こうにスカイツリーが見えるのも人気の理由かもしれません。
浴衣を着て紫陽花と写真を撮っている中国の女の子たちを見ていると、
ここ最近の不穏なニュースがまるで嘘みたいだな、と思います。
「紫陽花」は日本での名称で、中国語では「繍球花」と書きます。
ある程度日本文化に理解のある人は「紫陽花」でも分かる人もいるようですが、
由来は唐代の詩人、白居易の詩だという事は中国でもあまり知られていません。
雖在人間人不識/与君名作紫陽花
「人間に在りと雖も人識らず、君の与に名づけて紫陽花と作す」
こんな意味の詩です。漢詩ってロマンチックですよね。
この詩を日本に紹介したのは、平安時代中期の歌人であり、学者でもある源順だと言われているようです。
「人間に在りと雖も人識らず」の素敵な表現をガン無視している点は、「作者の意図を汲めよ」と思わなくもありませんが、
アジサイに「紫陽花」という名前を当てたセンスは素晴らしいです。
一方、中国での名称「繍球花」は刺繍手鞠の意味があるようです。
日本だとカタカナで表記されがちな花の名前も、中国語だとすべて漢字表記です。
中には「こんな素敵な字をあてるなんて!」と思わず感嘆してしまうような名前もあります。
白居易も源順も、自分たちが死去してこんなに月日が経過しても、
こんな風に両国を繋ぐものになるとは思っていなかったかもしれません。
実際の「誰も名を知らない花」は一体どんな花だったのかは、今では本当に誰も知りません。
でも、知らない方がロマンチックで素敵な事が、世界には意外にたくさんあります。
今年も厳しい暑さの夏が来るそうです。
今年も生存することをまず第一に、生き抜きましょう。
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