令和の浴衣革命は伝統になり得るか

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こんにちは、夏が嫌いな宮寺理美です。
今年の夏も、この暑さにうんざりしている方が多いのではないでしょうか。
最近ではもう感覚がおかしくなっており、32℃くらいだと「涼しい」と感じてしまいます。
夏に対しての苦手感を感じ始めたのは10代の頃からで、
旅行だったり夏のレジャーだったりと、長期休暇独特の「浮かれています」という空気感がなんとなく苦手でした。
子供の頃には私にも夏休みがあり、それなりに楽しく過ごしてはいたのですが、
最近ではもう「外にいるのが危険」という気温に達しており、もはや好きか嫌いかなんて問題は通し越していますね。

しかし、そんな夏にも、私には楽しみがあります。
それが「夏着物」と呼ばれる夏の和服です。
夏着物は絽や紗と呼ばれる、透け感のある織り方の生地で作られています。
もちろん、着物の内側には見せたくないものも多々あるので、透け対策も必要になります。
結果的に、通気性抜群のカッスカスの生地の服を着ているのに、さして涼しくもありません。
なんとも非合理的な上に、この暑さでは夏本番になってから着るのは体力的に厳しいのが現状です。
「夏着物は涼しい」と仰る方もいますが、それは気温や湿度がある程度低い季節までです。
38℃、時には40℃を記録する現代日本の夏、クーラーの室外機から発される湿気と熱風が渦巻く東京では、
帯やタオルで腹の周りを何重にも巻く着物は、お世辞でも「涼しい」とは言えないです。
というわけで、私は夏着物は6月~7月上旬くらいまでに着ています。

夏の浮かれた空気が苦手な上に、好んで非合理的な衣服を着るのは、なんともけったいな趣味です。
しかし、透け感のある生地の重なりはなんとも美しく、他の季節の和服にはない美しさで、
どうしてもこの美しい服が着たいと思わせられてしまうのです。

ジョーゼットと呼ばれる生地の夏着物。 Photographer ゆういち

私の苦手な夏の浮かれた空気感の中に、以前は「浴衣」も含まれていました。
近年ではアパレルショップなどでも浴衣を簡単に購入できます。
私が子供の頃なんかより明らかにお洒落な色柄のものが増えましたし、
アパレルブランドでは毎年新作の浴衣を発売するブランドもあります。
もしかしたら今は、着物は着たことが無いけど浴衣は着たことがある、いう人の方が多いかもしれませんね。

私個人的な感覚ではありますが、
昨今の「浴衣ブーム」ともとれる状況は、アパレルブランドが手を入れた結果のように見えます。
和服愛好家の方の間では「浴衣から和服愛好家になる可能性もある」という意見も見受けられますが、
実際には、浴衣から着物に移行していく人はほとんどいないのではないかと思います。
気軽に通販やアパレルショップで購入できる浴衣に対して、着物はかなりハードルが高いのは否めないです。
また、着物は多くの日本人にとって「特別な服」であり、
着物を着るというライフスタイルが想像できない人も多いのではないでしょうか。
「夏に浴衣を着て花火大会に行ったら満足」とか「成人式は親の希望で振袖を着た」とか、
こんな感じの層が圧倒的多数のように思えます。

こちらは絽の夏着物。 Photographer 伴定良

昨年くらいからでしょうか、
若い女性向けの安いアパレルブランドから「セパレート浴衣」「ワンピース浴衣」のような商品名で、
簡易的な浴衣が販売されているのを見て、心の中で「ついに始まったか」と感じていました。
ロングキャミソールやワンピースのようなものと、ガウンのような浴衣の上半身の部分、
兵児帯がセットになった簡易的な浴衣で、値段はそこまで安いわけではないのですが、
ウェブ広告を行ったり、話題性のある女性インフルエンサーを起用したりと、
アパレルショップならではの戦略で売り上げを伸ばしているように見えます。
私も実際に着てみて、従来品と比較してみたのですが、本当に着るのが簡単で驚きました。
こういうアイディアは「変化」よりも「守り伝える」のフェーズに入っている、
伝統産業の世界からは出てこないだろうな、とも感じました。


先述したように、現在の日本では「夏に浴衣を着て花火大会に行ったら満足」という層が圧倒的多数。
そのような層が購入しているのは、本質的には「浴衣」という衣服ではなく、
「浴衣を着て夏のイベントを楽しむ」という体験なのではないでしょうか。
しかも、花火大会は入場料もかからず、タダです。
夏はこのような、経済状況がお世辞にもいいとは言えない人でも、
誰でも楽しめるアクティビティが充実している季節でもありますよね。
アパレルブランドは、このような夏のイベントにちょうどいい価格帯の服を提供しているだけなので、
例え簡易的な浴衣が従来の浴衣から程遠くとも、全く問題ないでしょう。
私は今の「浴衣ブーム」とも言える状況が、和装産業による盛り上がりだ、という認識ではないです。

このような状況はここ数年続いていますが、
ここ最近の夏の気温を考慮すると、いい加減この「浴衣ブーム」にも、
「暑いからムリ」というムーブが来そうな気もします。
実際、東京の隅田川花火大会では熱中症になる人が続出したようです。
そんな日がもしも来てしまい、浴衣ブーム自体が下火になれば、各アパレルブランドはさっさと撤退することでしょう。
ファッション業界は元々流行にかなり敏感ですし、ビジネスのための業界誌なども存在していて、
「今年は何を流行らせるか」を業界全体で示し合わせていますし、
アパレルという業は、金にならない事業に時間と手間をかけるほど余裕が無さそうに思えます。

Photographer ゆういち



もし、今後も浴衣の進化が進むとしても、今後も恐らく簡易化の方向性なのは間違いないでしょう。
喜ばしい側面もあれば、今後が少し不安になる側面もあります。
個人的には、中国のフォロワーさんが浴衣でキャッキャしているのを見ると嬉しいのですが、
呑気に喜んでもいられないのかなぁ、とも感じます。
何にせよ、私は一人の着物好きとして、粛々と夏の着物を愛し続けるしかありません。
今後の事はあくまで予測でしかありませんが、
あのタイプの浴衣が「従来品」としてたくさんの人に認識される日が来てしまうような気もします。
そんな日がもし来たとしても、それが100年続けば、それもまた伝統です。
変化のフェースと守り伝えるフェーズは、どちらも大切でどちらも間違いではないと私は思っています。
どのみち、私は粛々と好きな服を着るのみです。
結果的にそれが、和服という服の形式を誰かに伝えることに繋がる可能性もありますが、
それはいち消費者の役目ではない事もまた事実です。

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