成人式に振袖を着るのは当たり前?成人式の原点

和服

※この記事は2021年1月に他媒体で書いた記事の改定版です。

こんにちは、宮寺理美です。

コロナ禍になってから、式典の在り方の変化についても報じられる機会が増えましたね。
各所で式典が中止や延期になったり、オンラインで開催に変更になったり、
2022年は成人年齢の引き下げも実行されました。
しかし、結果的に、
決行しても中止にしてもSNSではグチグチ言われ易い感じになってしまい、
結果的に色々やりづらい時代になってしまったなぁ、
と個人的には思います。

でも、色々言っている人の大多数は、
とっくに成人式が終わっている人のように見受けられました。
成人の日が「新成人の皆様の門出を祝福する日である」という事実は揺るぎないと思います。

さてさて、
成人式といえば「振袖」がセットですよね。
現在では当たり前ですが、
調べてみたら、意外に最近始まった習慣でした。
今回は、成人式と振袖の事について書きたいと思います。



成人式の始まり

成人式の起源を、武士の「元服の儀」だと思っている人、
実は結構多いんじゃないかな?と思います。
でも、成人式そのものが始まったのは、実は以外に最近です。

着物およびその周辺の風習(特に成人式や結婚式)については、
ビジネスの都合で「伝統」が謳われることが大変多いです。
しかし、結婚式という挙式の形式が民間に定着したのも意外に最近で、
皇族の挙式が話題になったのをきっかけに、
現在の東京大神宮が明治30年代以降に「神前式」を創設し、
ビジネス的に展開したんだそうです。
(江戸時代は「結婚式」じゃなくて「祝言」ですからね~)
ご興味のある方は東京大神宮のHPをご覧下さい。

では、成人式が始まったのはいつ頃なのでしょうか?

成人式発祥の地については様々な見解や主張があるようなのですが、笑
私は埼玉出身!という事で、
埼玉県蕨市で行われた、成人式の原型であるとされる「成年式」について触れたいと思います。

蕨市のHPに、「第1回蕨町青年祭・成年式」の様子が掲載されていました。
一部抜粋します。

成年式が初めて行われたのは、終戦の翌年、昭和21年(1946年)のことでした。
当時は、国全体が敗戦による混乱と虚脱感で明日への希望が見いだせずにいました。
そうしたなか、蕨町青年団が中心となり、次代を担う若者たちを勇気づけ、励まそうと、「青年祭」を企画。
その催しの幕開けとして行われたのが、「成年式」でした。

成人式発祥の地のまち蕨

どうでしょうか?
現代の成人式のニュアンスとは、どえらい違いを感じませんか?

終戦は1945年。
現在、終戦の日とされているのは8月15日ですが、
すぐに戦乱が終わったわけではありませんよね。
「青年祭」が行われたのは、
1946年11月22日~24日だったそうです。

成人式と着物

1940年7月、
バリバリ戦争中のご時勢ですね。
この時期に「奢侈品等製造販売制限規則」という法令が施行されています。
コレ、要するに、戦時中の「ぜいたくは敵だ」の法令ですね。
法令の詳細が知りたい方は国会図書館デジタルコレクションをチラ見するのがオススメです。
中古品の販売にまで言及されていて、なかなかのハードさでした…

和装業界はこれによって大打撃だったのではないでしょうか。
成人式の発足は、
和装業界にとっては絶好のチャンスだったはずです。

昭和30年10月発行「きもの読本スタイル」 昭和33年1月発行「若い人のきもの」


個人的に集めた古書
・昭和30年10月発行「きもの読本スタイル」
・昭和33年1月発行「若い人のきもの」
の表紙です。

掲載されていた若い女性向けの礼服が、振袖ではなく「訪問着」でした。
これは現在では準礼装、という括りの着物です。
簡単に言えば
「シンプルで控えめ、かつ、かしこまった場に合う、既婚・独身どちらでも着用OKな着物」です。
現代の和服だと、若い女性(独身女性)の礼装=振袖、もし控えめに装う機会なら訪問着、
という雰囲気かな?と個人的には思います。
訪問着が第一の選択肢になるのは、ちょっと珍しいですね。

福島県いわき市のHPに、
成人式に着物を着用するのが普及し始めたと思しき、1950年代後半ごろの写真が掲載されています。

当時のいわき市のお嬢さんたちも、
やっぱり振袖ではなくて訪問着を着ているんですよね。
発足してからしばらく経っても、
「成人式には第一礼装である振袖を着よう!ハタチの振袖は特別!」
って感じじゃなかった、と私は読み解きました。

福島県いわき市のHPにも、ちょこっと掲載されていたのですが
「新成人の着物、派手すぎやしないか論争」があったようなんですよね。
しかし、そんな周囲の声とは裏腹に、
成人式の着物はどんどん派手になっていったそうです。
人々のお洒落欲は誰にも止められないんですよね。
それは歴史が既に証明していますからね。笑
1950年代以降の成人式の着物は、
参加者にとって「どうしても着たい」という欲望をかきたてる存在だったのではないでしょうか。
(戦争によって色々な物を抑制されていた反動もあるかと思います。)

また、成人式の意義も変化していますよね。
「若者を励まさなければならぬ!」という発足当初の主旨と比較すると、
きれいなおべべでみんなで集まってお祝いするイベントに様変わりしていっていますよね。

2007年に成人を迎えた私は、当時ギャルブームの最中だったせいもあり、
肩を出した花魁風着付けへの批判があった事を記憶しています。
でも本人達は「は?だから何?別によくね?(ギャル口調)」
って感じで、特に気にせず楽しんでいらっしゃいました。笑
修羅の国でおなじみの北九州市の新成人の皆さんの装いも然り、
「この服がどうしても着たい」のパワーには誰にも勝てませんね。



振袖市場に関しては、すでに新しい風が吹いていますが、
少子高齢化が叫ばれて久しい現代です。
成人式が一定の大きさの規模の「市場」だった時代とは様相が変わってきました。
「成人式だろうが好きな服を着る」
というムーブメントは、何も今起こったわけではありません。
お上品な日本の伝統としての着物を推進したい側の方々からすれば、
意思や利益には反するブームなのかもしれませんが、
「どうしてもこれが着たい!」
という気持ちをムクムクと沸き起こさせるような訴求が
「ハタチの振袖は特別」「着物は日本の大事な文化・伝統」
だけでは不十分では?と私は思います。

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